【 AIRAM 〜アイ・ラム〜 】(第一部小説執筆中)

オリジナル小説【AIRAM】。「アルファポリス」で執筆中公開中のものをこちらでも。追加入力&修正中ですがよろしければアルファポリスでもお気に入り等よろしくお願いします。

第一部「密室1日目」(対象…14歳のマリア名の少女、40名)〜『休息時間、二』

休息時間、二。

 

 

 

 真っ暗な室内で白テーブル前に座るメイド服の若い女性五人を、食事をする22人の少女を映す監視映像内の白い食堂の明かりが照らす。炭酸の泡が上へ昇る液体の入ったペットボトルを手に、肘をついたり白テーブル上に乗せられた白い箱の中に入れた少し小さい白枕に頭を乗せながら監視映像へ顔を向けるメイド達が、力の無い声を出しゲップを出し談笑する。

「いやーさっきのマジ水道代の無駄ですよねー」

「ゲップ。本当それですね」

「つか早く休憩時間来ないかな」

「ゲップ。本当それですね」

「執事側で一番料理が美味しい人達が作ってる夕食、私達一番最後かあ」

「ゲップ。本当それですね」

「待たせたわね、我が屋敷のメイド達」

「「「「「若奥様」」」」」

「私と彼女達の休憩時間が終わったから引き継ぎの後でたっぷり休憩して頂戴」

「「「「「承知致しました」」」」」

 引き継ぎ事項を済ませ軽やかに挨拶をしながら去っていく若いメイド達を、若メイド長と若いメイド三人が見送る。若奥様と呼ばれる金髪の女性が黒パンツスーツを纏う脚を組んで室内で一つだけのコウテイ型ソファへ腰掛け、若メイド長が室内へ入った直後にサイドテーブルへ用意していた色とりどりのペットボトル十本の内の一本に手を伸ばす。

「今の気分はこれね。他のペットボトルを」

「はい、クーラーボックスへしまっておきます。他の物が飲みたくなったらお声がけを」

「ええ。さて、毒で亡くなる子はいつ出るかしら~。あら、あのミルクベージュ髪の女の子、やっぱり中々ね。毒入りの物だけ残してるわ~まあ容姿はモブいけど」

「ブライアンでしたか。彼女の真似をしている少女は同じ物を残していますが、中には全部食べている子もいますね」

「あーあれ舌ピリピリするはずなのになあ」

「泣いてて気付かないみたいですね~」

「あ、全部食べない子もいますね~」

「まあシャワーの前にもシャワー室でもあんな事あったし、当然かあ」

「あー嫌だわコレ新しいからって手を付けたらハズレ引いたわ~」

「奥様。ご自身で選んだのですから、ちゃんと全部お飲み下さいね」

「あーもうわかったから睨まないで頂戴~さすがうちの若メイド長、守銭奴だわ~」

 

 

 

「げえ。コレ、舌ピリピリする。止めとこ」「こんなに品数あるのに~何かもう食べる気なくす…パンだけは大丈夫だって言って…」「私全部食べた…どうせもう死ぬんだし最後はお腹いっぱいになりたい…」「うわお前マジ予備軍死んでも知らねえぞ」

 レトルトパックの品名と裏の印刷文字を全て見てからパックの口を開け中身を一、二秒確認しニオイを嗅いだ後で自身の口へ運んで口に含んでから、ゆっくり咀嚼、それから普通に食事。

 一パックずつその行為を繰り返すブライアン、彼女と同じ食べ方をするスミスに、あまり食事の進まないウィルソンとブラウンとミラー、そしてルイス。彼女達がいるテーブルの様子を、十人程で食事を囲むグループがチラチラと窺う。十人に混ざり食事をするガルシアも、ブライアンが食べた物から手を付けていく。

 ブライアンが「あ、これ美味しい」と頬を少し緩め、レトルトパックの裏に印刷された市場の物より事細かく説明されている原材料名の下にある原材料名一つ一つの生産地に目を通す。十人程で食事を囲む少女達を背にブライアンの向かいの席に座るウィルソンとブラウンが、肘をつき頬杖をつき、レトルトパックを力無く手にしながら苦笑する。

「ブライアン嬢、余裕だなあ」

「ね。私らもう警戒し過ぎて味がよくわかんなくなってきたよ」

「それそれ。ミラー、食べてる?」

「あーまあ、うん…でも、トマトのは今夜は無理かなあ。まあ明日の朝もトマトのメニュー出るかわかんないけど…」

「あんな事が起こるってわかってて赤いメニュー出すとか、あの白仮面共どんなドSだよ」

「それなー。スミスちゃんは割と食べられてるね?」

「ええ、そうね。裏の項目にわざわざ毒とか書いてるのもあるし、ブライアンも教えてくれるし。ブライアンやルイスは嗅覚や味覚が鋭いから、頼りになるわ」

「はは。でも私が気付かないで食べちゃう可能性もあるし、私が無理でも大丈夫な人もいるかもだけど…」

「でもアレルギー無いんでしょう? だったら大丈夫よ。ブライアンの苦手な物が味の濃い物と甘過ぎる物だから、その二つはわからないけど」

「それな。デザートまであるのに、どうなるかわかんない物に手付けるのはなあ…」

「怖いよねえ。まあ、でも他の子の中にデザート食べて具合悪くなってる子いないみたいだし、デザートは大丈夫なんじゃない? あとパン」

「あーパンは市販に出てるのと同じだもんなあ」

「そうだよね…コレ市販のあの有名なやつと同じだもんね…中身がすり替えられてなければ…」

「怖い事言うなよミラー。ニオイも全然大丈夫だって、ルイスも言ってんじゃん」

「ああ。うちの家、毒物とか平気で売る店も近くにあるからもう色々嗅ぎ分けられてしまってなあ。口に入れる前にわかる」

「すげえ怖い所に住んでんだなあ。よく生き残れたな? いや、ここでじゃなくてルイスの家の近所の話」

「まあ、私も小さい頃から怯えてはいたけど、慣れたり大きくなるにつれて恐怖よりも安全圏を歩く為の確認作業の方で気を取られやすくはなったな。それに近所から離れてそれこそ学校の近くとか街中に行けば、安全な食料も買えるし安全な食事もできるし」

「マジやべえ。あ、ブライアンもうお腹いっぱい?」

「うん。あんまり食べて安心し過ぎるのも怖くて…あ、ごめん何か不安にさせるような事…」

「いやいいよ、皆そうだしな」

「そうそう、本当の事だし。そういえば朝にシャワー浴びても良いとか書いてたけど、どうする~? スミスちゃん浴びるう?」

「そうね…寝る部屋に何か変なニオイが流されたら嫌だし、一応浴びていきたいけど…」

「まあそれだよなあ。寝室に何もしないとも書いてないしなあ」

「そうだよねえ。でも私も朝のシャワー浴びたいなあ。けどあのシャワー室見た後だと他のシャワー室もちょっと怖く感じる…」

「一番端のシャワー室で良かったわよね」

「スミスちゃん度胸あるなあ。言いながらパン食べるとか」

「今の内に大丈夫な物あるだけ食べておかないと、明日の朝ご飯がどういう物かわからないし」

「まあ確かになあ。食事の時間はゆっくりでいいみたいだし、私も食べるかな…」

「私も頑張って食べよ。これが最後の晩餐かもしれないし…」

「だよなあ。いやでも生き残れるだろ、四人以上でも良いんだもんな? 頑張れば大丈夫だって。IQ少女に医者の娘がついてるんだから」

「それもそうだね…うん、ちょっと食欲出てきた。食べる~」

「ミラー、大丈夫そ?」

「うん、皆の話聞いてたら…それに食事時間30分だし、今の内に食べちゃう」

「まあ無理はするなよ~」

「私これ返却扉に持ってくね」

「いってら~。…にしても、ブライアンすげえなあ」

「それね~。IQ高いだけじゃなくて毒見もできるとか…」

「まあ本人は危なそうとかちょっと曖昧な感じだったけど、言ってる通り舌ピリピリするのとかその中にあったしねえ」

「勉強になるわ」

「医者って毒見必要だっけ?」

 返却扉の中に食事済のトレイごと入れると、重い音の後にスライド音と稼働音が聴こえ、音が止まってから開くと中が空っぽになっていた。ブライアンが空っぽになったのを確認し目を瞬かせ扉を閉めると「ブライアン、」と後ろから声を掛けられる。彼女が声の持ち主を見ると、ブルネットの巻き髪が緩いウェーブになったガルシアが食事済のトレイを持って立っていた。

「この後でちょっと二人きりで話したいんだけど…いい?」

 

 

 

 人のいない白く明るい化粧室。ジョーンズの亡骸があるシャワー室の方向と反対側の長椅子の端にガルシアが座り、隣にブライアンが座った。食堂への扉横の貼り紙を正面に座ったガルシアが、ブライアンに向かい合い「あの、相談なんだけど、」と声をひそめ言う。

「もし良ければ同じ部屋で寝ない? ジョーンズがいなくなった後で急に頼むのも何だけど…」

「あー、その…。ウィルソン達に聞かないとわからないかな…私一人で使うわけじゃないから…」

「そっか、」

「ご、ごめん」

「いや、わかりきってる事だし。あ、でもそうなるとルイスは?」

「ルイスからも同じ事聞かれたんだけど、ウィルソン達に断られちゃって…ルイスが銃二つ持ってるからって皆言ってたけど、どうも理由が違うような、あっいや何ていうか、」

「私も二丁銃持ってる。まあ今は回収されちゃってるけど」

「そうなんだ。まあ私一人じゃ判断できない事だし、良かったらウィルソン達呼んでくるか彼女達に聞いてくるけど」

「いや、」

「あ、いたいたブライアン嬢」

「あ、ガルシアちゃんも一緒? 何二人して密会ですか~」

「ウィルソン、ブラウン。…どうする? ガルシア」

「ああ、もしかして一緒の部屋で寝たいとか? だってさ、ウィルソン。どうする?」

「あーまあ、ガルシアならルイスよりいいけどな~…」

「もし六人以上で寝る事で何か起こったら怖いからねえ」

「二人共、マジそれな…」

「ミラー。食べ終わったの? スミスちゃんも」

「うん…ちょっと食べた気しないけどあれ以上食べるのも難しかったから…」

「早食いして具合悪くなっても困るしね。…貴女、ガルシアよね。どうしたの? ブライアンと二人で」

「同じ部屋がいいんだと」

「あー、まあ、6人までなら大丈夫よね」

「え、そうなんスミス?」

「ええ。寝室に入ってすぐある扉の横にある壁の注意事項にあったわ。6人まで可、7人以上は不可、ってハッキリ」

「あんなビッシリ長いの全部読んだの?」

「さっすが~」

「見逃して何かあったら困るからね。ブライアンも読んだでしょう? だからガルシアだけ入れましょう」

「OK、あーでもルイスにどう言う?」

「ルイスは放っておいても大丈夫だろ。黒人だけあって空気読んでるし」

「まあ他の子達がボディーガード代わりに入れてくれるかもだしね~」

「だってさ、ガルシア」

「ありがとう…一人で食堂とかに残って何かあったらどうしようって凄く怖かったから、」

「まあ寝室で何も起こらないって保証も無いけどね」

「ね~、それね」

「シビアですなあ、スミスちゃん。でもそうだよね…シャワー室でもね…」

「まああれは注意書きちゃんと読まなかったジョーンズが悪いだろ。他の皆はちゃんと見てたし」

「そうね。寝室がどれくらいの広さかわからないけど、まあ二人で一つのベッドなら大丈夫じゃない?」

「そうだね~。私とスミスちゃんが同じベッドでも良いよね~」

「ちょっと、ミラー」

「その事だけど、長椅子かソファでもあれば、私はそっちで寝るから。皆はベッドで寝て」

「え~、でも悪いよ~」

「急にグループの中に入れてほしいって言ったのは私だし。そうさせて」

「まあベッドによっては三人で寝るのもあるかもだし、入ってから決めても遅くないよお」

「そうだな。それにガルシアって私達側の人間だし。一緒に寝ようぜ~」

「うわっ、ちょっとウィルソン、…ありがと、」

「いいっていいって。あー、にしても、こんな状況じゃなかったら夜通しで恋バナとかお菓子食べたりとかするのにな~」

「あ~それね~」

「ここ無事に出られたら皆で集まらない?」

「賛成~! 誰の家にする? それとも年齢詐称してホテル行っちゃう?」

「スミスちゃんの家は? 医者の家なんだし一番広いんじゃね?」

「あーうちの家厳しいから、他の人の家じゃないと無理そう」

「あーそっかー。ブライアンの家は?」

「あ…うちちょっと家族仲あんまり良くなくて…」

「へ~、うちも家族仲良くないんだよなあ。たまにガラス割ったりとか日常茶飯事でさあ~」

「ガラス割るとかちょっとヤバいでしょ~」

「まあここ出てから決めようよ。それより食事時間もうすぐ終わるよ!」

「寝室入れるんだよね。どの寝室にする?」

「つっても早い者勝ちなんだろ? 何かすげえピンクの部屋とかあったけどあのグループが狙ってるから無理そうだしなあ」

「そうよね、諍いあって寝てる内に狙われても困るし」

「まあ鍵かければ大丈夫、ああでもピッキングできる子いるかあ」

「そしたら交替で不寝番する?」

「ぜってえ寝る自信あるわ」

「それな」

「あ、二人ずつはどう? もしくは三人」

「三人ずつなら誰か寝ちゃっても大丈夫そうね。ブライアン、いい?」

「うん、大丈夫」

「じゃ、あれで決めようよ」

「オッケー。それじゃ、」

「「「「「「いっせーのーせ、」」」」」」