休息時間、一。
「このホテル本当良いな」
「うん…全部私の趣味で造らせてる」
「知ってはいたが何かここでそれ言われるとちょっと気持ち悪くなるからやめてくんね?」
「全部私の趣味…」
「やめろよ、つかまさかあのファンシーな二層階もお前の趣味?」
「ダメ?」
「いやいいけど、んで仕事の話なんだが、」
「あー例のRANちゃんの件とその関係ね」
「さっき地下のカジノで聞いた話だとRANちゃんが請け負った仕事で別の家の人間としてスパイしてるみたいで」
「へえ」
「お前神妙な面持ちで盛り盛りのパフェ食うなよ、んで仕事中のその子からの情報発信とその子の両親とその部下の調査、っつーより内容が娘のストーカーだったけどその調査で社会的不都合が多かったから、周りの人間含めて消せるだけ消して連鎖起こしつつ実験と外からの人間用のエリアと住居拡大してってるらしい」
「あ~地図外の人達ね、まあ私達も地図外出身だけどまあ原始人みたいな猿文化の奴らとはかけ離れてはいるよね」
「んな可愛いパフェ食べながら言う事辛辣だよなまあ本当の事だけどよ、で、アメリカとその他複数国を寝床にしてこの西暦世界地図内のエリア割と開拓調査していってるだろ?」
「始まりはこのエリアが戦争真っ只中だったよねえ、それが今ではこんなに平和になって、」
「もうちょい科学進歩させつつ不作地域の雑草焼き払って土壌良くしたら俺達のこのエリアでの仕事は終わりらしい」
「で、それがちょっと曖昧な言い方だったと」
「そう! 凄え曖昧でこっちの事顎で使う気満々の奴らがいてよ、」
「それで今日ちょっとイライラしてるんだね、パフェ食べる?」
「いやいい、酒一つ追加で」
「明日もまだこの件で情報収集と会議なんでしょ?」
「お前も会議出るのに何か他人事じゃね?」
「え~とりあえず私パフェ追加したいからお酒一緒に頼む?」
「頼む」
「うん、一杯奢るよ」
「そう言ってホテル内での利用費全部払うんだろ」
「君もしてくれてるじゃん。宣伝料の方が大きいし情報交換相手もお金落としていってくれるからね」
「まあな。くっそ、カクテルとつまむもの欲しい」
「最近できた新メニューと一緒に好きな物頼んであげる」
「あー新メニューの意見欲しいのな、わかったわかった、」
壁二面の硝子窓越しの高い濃緑の樹木林と砂色の大地を、白く輝く太陽光が空と共に朱に染める。太陽光を浴びて朱に染まる白肌色のジェンガがティラノサウルスの姿を形作り、その横を通り過ぎたもこもこ白パジャマ姿の社長が白タオルを肩に掛け窓硝子の前に立つ。スーツ姿時よりも一回り大きく見せる白熊のパジャマ姿が夕陽で眩しい硝子に映る。
「ふう…私、美しい…」
「社長がお美しいのは承知していますから、この案件だけでも今日中に終わらせて下さい、髪乾かした後でいいんで」
「美しい私の美人秘書は今日も優秀だね。仕事の前後でアイス食べていい? CMに出てたやつ食べたい」
「食べ過ぎないで下さいね」
「え~それはそうとこのパジャマどう?」
「何でそのチョイスなのかが謎です」
「クリスマス近いからトナカイにちょっと浮気しかけたんだけど、ほら私ってトナカイにソリで罪人轢かせる側だからさあ、あとパジャマはやっぱり白だよねあっ入口でやっぱりつかえる、」
「ご自分で何とかして下さい私は残りの仕事終わらせてアフターファイブをゆっくり過ごします」
「あー待って入る時は大丈夫だったんだけど、ねえ誰か人呼んできて~!」
白い照明が真っ白な室内を明るく照らす。電子レンジの高い音がいくつも鳴り、扉を開閉する音と衣擦れの音や若い男女の声が談笑する声作業する音が、白く簡素で無機質な室内を賑やかにする。二種類以上のレトルトパックやパンの入った袋を次々と食事用トレイ上に乗せテーブル上をスライドさせていく手が全て水色のビニール手袋の上に透明な手袋を着けている。
ゴムでしぼられた白帽子に白マスクと上下に分かれた白作業服、の上に同じ形状のビニールの帽子とマスクと作業服に加え透明ゴーグルも着けた若い男女達が、二色の手袋を重ね着けて流れ作業する、室内の壁のスクリーンに。黒スーツ姿の金髪の女性と黒スーツの黒髪の男性の姿を映した。
「若奥様」「若旦那様」
『私のメイド、執事、お疲れ様です。夕食運びの作業が終わり次第、男性陣全員は私達の夕食の準備にとりかかって頂戴。女性陣はシフト通り交代しながら再び監視をお願いするわ』
「「「「「承知致しました」」」」」
「ていうか奥様また変な曲流してません~?」
「これもあの聖なるおかしな女の事を歌った曲ですよね」
「こっちの曲はマリア連呼じゃないですよねえ」
「作者不明とか怪し過ぎですね」
「まあでも暗号で解くと中傷の言葉にしか聞こえませんけど実際はどうなんですかね」
「まあいいじゃないですか公式のは全部あの女の歌って事になってるんですから」
「それもそうね…」
「男にとってはマジ異生物にしか感じられないよな…」
「いや女にとってもですけど?」
「そうよそうよマジUMA過ぎてホラーよ」
「にしてもこれレトルトパック多過ぎない? こんなに食べられないわよ勿体ない」
「食べて死ぬような物もあるじゃない」
「確かに」
「全部食べて生き残ったらマジUMAよね」
「それ~」
手前に更衣室のある一人用シャワー室が十室並ぶ明るい白通路へ出たブライアンが、白タオルを頭に巻いて髪をタオル内にしまった状態で、隣の部屋から出たルイスと合流する。続けて二人の隣室から出たガルシアが、首からかけたバスタオルに髪から温かい水滴を垂らし、二人の様子を髪を拭くバスタオル越しに見ながら、先を歩く二人に続いて更衣室前の短く白い通路を進み白通路中央の前で止まる。
「化粧室」と書かれた扉のドアノブ上にあるカードキーへ、白通路へ辿り着いた時に横壁から出て手に入れたカードを入れる。彼女が扉を開けた先には、ドライヤーとブラシと櫛がサイドに置かれた洗面台が十並ぶ、教室一部屋分程の広さの、白く明るい簡素なインテリアの部屋があった。扉から向かって正面には洗面台エリア、右側奥に明るく細長い通路が続き、左側奥の壁には「食堂」と書かれた扉がある。
食堂の扉にカードキーが無い事を視界に入れたガルシアが、扉横にある貼り紙に「レスト時間15分経過後、食堂への扉の開閉が可能になります」と印刷された文下の朝までのスケジュールと注意書きを見ていると。出てきた扉側の壁越しに「ねえガルシアちゃん~、」と間延びしたジョーンズの声が、彼女に声をかけた。
「そんなに速く浴びなくてもシャワー時間まだあと二十分あるよ~? 後から来た六人もまだ浴びてるし~」
「ちょっと先に室内見ておきたいから。ジョーンズはゆっくり浴びてて」
「りょ~かい~。あー、ってかこのシャンプー良い匂いするう。自分が使ってるシャンプーあれば良かったけどこれは割と良い方かな~」
「へえ。後で使ったシャンプー教えてよ」
「いいよ~。ガルシアちゃんのも教えて~、あーマジあったかいお湯が沁みるう~、」
奥に続く通路から「トイレだったね」と言いながら出てきたブライアンとルイスが、洗面台前の椅子に座ってドライヤーをかける。化粧室内の時計の針が示す、レスト時間開始から14分経過頃。髪を乾かし終えた二人がシャワー室側に並べられた長椅子に座り、白通路からカードキーで入ってきた四、五人と談笑する。
「やっぱりちょっと落ち着かなくてさ~、早めに浴び終わっちゃった」「だよねえ」「ていうかさっきの通路に入る前の二人ずつしか入れない待機室さあ、ちょっと暗かったよねえ」「省エネじゃない?」「でもあの部屋で待たされるのちょっと怖いよねえ」「わかる~。しかも次に入る順番で若干取り合いになったし」
レスト時間開始から15分経過後、食堂への扉がロック解除音を出した。手前で待機していたブライアンとルイスとガルシアが、ブライアンを真ん中、ルイスを先頭に、食堂への扉を開く。扉を開くと、物音一つしない、白い照明光が照らす明るい教室大の部屋へ出た。
食堂中央には、白い横長テーブルと白長椅子が並べられ。左側の壁には、「配給扉」の表示カードを掲げる食事用プレート大の白扉が奥側に十、手前側には「返却扉」の表示カードを掲げる白扉が十並び。食卓の向こうにある正面には、「寝室」の表示カードを掲げる扉が四。右側の壁には、左側を広い白壁のままに、右側奥に「EXIT」の文字が入る一つの灰色の扉があった。
「…とりあえず、ここで殺される事は無さそうだね」
「そうだな。だが部屋が四つしかないぞ。5人部屋なんだよな?」
「余った人は他の部屋に入れるのかな。中、見れるなら見ておきたいな。食事時間まであと15分だし」
「そうだな。…貴女も一緒に見るか?」
「いえ。私は別で行動しておくわ。一緒に来たツインテールの子がまだ来ないし」
ルイスがガルシアに「OK、」と苦笑し、ガルシアへ微笑して手を小さく振り去るブライアンに続き寝室へ向かった。
20分経過頃には10人程食堂へ入り、25分頃には20人程が食堂で寛いでいた。25分経過後、一人で配給扉と返却扉間の給水器から水を汲んだ少女が「そういえば」と隣の少女二人へ話しかける。
「さっき25人から23人に減ったよね。まだ3人来てないけど」「まだ浴びてんじゃない? こんな所でそんなに長く浴びても怖いだけじゃん、何か見た目は新しいけどさあ」「マジそれ。てか例のツインテールいないけど、その浴びてる中にいんのかなあ」「巻き髪の子と一緒にいた女?」「そー。何かこっちの事すげえ見下してた女」「マジむかつくよねアイツ。この歳であの髪にしてる時点ですげえキモいのに。てか何か巻き髪の子にすげー媚びてなかった?」「あー、ね」「まあこのまま閉じ込められていなくなるならいいよねえ」「それな」
ガルシアが少女三人の声を後ろに化粧室の扉を開けると、二人の少女が髪を乾かしているのが彼女の視界に入った。プラチナブロンドではない二人から視線を外し、カードキーを入れてからシャワー室へ続く白通路へ入る。
白通路への扉を開いて正面にある、暗い通路側から白通路へ入ってきた白扉が、灰色の扉にすり替わり、灰色の扉にEXITの文字が無い事を一目見て確認した後。シャワーの流水音がまだ響く一室へ「ジョーンズ?」と声をかけた。ノックをしても返事の無いその一室へ拳を作った手でドンドン音を鳴らすが、シャワー以外の音も声も無い。化粧室の扉が開き、十人程の少女達が入ってくる。
「何、やっぱあのツインテールいないんじゃん?」「やっぱり何かシャワー室に仕掛けられてたんじゃない?」「うわあ…早めに出て良かった~…」「ねえ、アンタと一緒にいたツインの女が入ってたの、もしかしてその部屋?」
「ええ。例のIQ少女と黒人の次に私達二人が入ったんだけど…」
「え~、最初からずっと?」「さっき声かけてたけど何も返事無いんでしょ? ヤバくね?」「だよねえ。ねえ、これ開けられるのかな」「開けてどうすんの~、死体あったらどうすんの~!」「でも開けないとわかんないじゃん。何でダメになったのかも知っておきたくない?」「あーそれ、」
「なあ、何かあったの?」
「あ、ウィルソンちゃんとブラウンちゃん~」「それがさー、巻き髪の子と一緒にいたツインテールがまだ浴びてるみたいでー」「何かノックしても声かけても全然返事無いんだってさあ」「食事時間まであと3分だけど」「えーじゃあもう行く?」「だねー」
ウィルソンとブラウン達の前に入ってきた十人程の少女がその場を去ろうとした時、『利用可能限界時間を超えました。シャワーを自動停止致します』と機械音声が言葉を紡いだ。シャワーの音が止まり、水滴が落ちる音が更衣室向こうで響く。
ガルシアがジョーンズの姓を呼ぶが返事も無く、ウィルソン達の前に入った十人程の内の一人が「私ピッキングできるよお」と言い、ポケットから出したアメピンで更衣室の扉の鍵を開けた。開けた更衣室内には誰もおらず、籠の中には脱ぎ捨てられたジョーンズの服と赤いハートのストラップ付きの小型拳銃があった。
鍵の無いシャワー室へ続く白扉を開けた瞬間、先頭のガルシアが小さく高い悲鳴をあげた。彼女の後ろにいた少女達が、青ざめた顔で更衣室の壁に背をつくガルシアの前を抜け、シャワー室への扉を大きく開く。
「うっわ、…裸じゃないだけまだマシ?」「つかまだ血出てんじゃん」「ツインテールの体隠してるこれ、何か書いてある」「何て?」
濡れたプラチナブロンドの髪の下で白目を剥いたジョーンズの口が、力無く開けられ。彼女の首から下を、台形型の灰色の金属が包み隠す。鉄製のそれに彫られている文を、一人の少女が読み上げる。
「“更衣室内の貼り紙にもある、シャワー利用制限時間25分を経過した場合。頭の無い鉄の処女の刑に下す”」
ジョーンズの体を包む頭の無い鉄の処女の下から滴る赤い液体が、シャワー室の床の排水口へと流れていく。
~ 残り人数、…22。 ~