【 AIRAM 〜アイ・ラム〜 】(第一部小説執筆中)

オリジナル小説【AIRAM】。「アルファポリス」で執筆中公開中のものをこちらでも。追加入力&修正中ですがよろしければアルファポリスでもお気に入り等よろしくお願いします。

第一部「密室1日目」(対象…14歳のマリア名の少女、40名)〜『第一通路』

 第一通路。

 

 

 

 重い灰色の薄影で灰色がかった白く薄い雲が何層にも視えない空へ向かって重なりゆく、曇り空の下。白灰黒赤茶と多色多材の建物が上へ横へと伸び連なり、薄灰色の電柱から垂れる黒電線にかかった白雪が弱く強く横から下から吹く風で吹き飛び残りまた散っていく。白赤緑青の大小星月雪華にトナカイサンタの色彩形豊かな電飾光が灯り点滅し、その明かりが少し暗い空の下の人の多い街の窓に人の視界に映り照らす。

 クリスマスの飾りと人の声、濃灰色のコンクリートを歩く音の違う足音の群れに賑やかなBGM歌電子音時折生演奏も溢れる街中が眼下に広がる、人で賑わうホテルビル二階の白照明が無い明かりの抑えられた喫茶店内。窓越しに街を眺めていた、白い縦ラインの入った渋い灰茶色のスーツを着た男性が。窓際個室の中央にある光沢のある濃い茶の重い樹木をクラシックな四角型にしたテーブル上に乗せられた、真白な模様の無いソーサー付カップ内から薄い白湯気を柔らかなラインで昇らせるブラックコーヒーを視界に入れ。白シャツ黒パンツスーツに黒ベストと黒エプロン姿の店員に低い声で小さく礼を言った。窓際にある白く丸い陶器から銀白が光るスプーンで白砂糖を二杯入れる。

 彼が白砂糖の陶器の隣の硝子瓶から砂糖より小さい粒の白粉を掬ったところで、背の高い彼の向かいに座る同じ背丈の濃灰色のスーツ男性が「で、続きなんだけど、」と窓外に顔を向ける。窓硝子に映る店員がカウンター内に入ったのが視えた。

「その誕生日会後から、彼女行方不明みたい」

「…それから五年経つのかい? 相変わらず放任主義な家だね」

「そうだよなあ。うちだったら秒で街一つ焼き滅ぼすよ」

「まあ実際やった事あるよね、君の家。…うーん、やっぱり先に砂糖入れる方が甘いなあ」

「俺ブラック派。で、さすがに心配だからプロジェクト請け負う代わりに探す手伝いをしてほしいんだと」

「ふうん。まあうちの12人メンバー内で下の子達がファンみたいだから大丈夫だと思うけど、私その子に興味無いなあ」

「お前のとこの子供と同じ歳だぞ、あったら犯罪だろ。んでその子、能力値は凄いみたいね。毎朝毒入りのデザート食べて育ったり関節の位置変えて狭い場所から脱出できたり世界のほとんどの言語使えたり」

「まあそれくらいなら他にもいるよね。私達と同じ歳のNASAのあの研究者のところの長男君とかもそうじゃなかった?」

「まあな。あとはまあ、性格に難はあるみたいなんだけど、まるで呪いでもあるような事ばっかり起こる子みたいで」

「呪いねえ。非科学的な事は信じないんでしょ?」

「いや俺も目耳疑ったけど、どうやらホントみたいなんだよな。観るか? 本人映像あるけど」

「私観てたらロリコンって思われない?」

「それ俺に対して既に思ってるって事? 仕事の話だからな?」

「…へえ。…呪いかあ…」

「あ、信じる?」

「いや、呪いはちょっと怖いかなあ」

「砂糖足すのかよ」

 

 

 

 白く輝く床に、外からの陽光を反射する白壁の室内の、二面全ての大きく透明度の高い窓硝子越し。一方の景色は、濃い茶皮を重ね深く浅く溝線を作り重力を受けながらも上へ生え伸びる幹に濃緑のたくさんの厚みのある葉を茂らせる背の高い木々が、高い蒼空の下、空との境界線をハッキリとさせる濃い緑の森となって群れを成しその色と存在の複数集合体を地平線まで覆わせる。もう一方の景色は、時折小さな緑に場所を譲る砂色の荒れた大地が一面に広がり、地平線近くの空と大地の境界線がぼんやりと溶け混ざる。広がる薄い蒼の高空を、強風で流されていく白い霧雲が、上へ下へ横へと雲の先の形を割り裂き砕き散らせ流れ去っていく。

 室内の中央で薄い白肌色のジェンガを積んでいた深い藍色のスーツ姿の若い男性が、ジェンガの上に女性の顔造形のマネキンをそっと乗せた。恍惚の溜め息を吐く一般人よりも身長の高い彼の後ろの白扉が、女性の声の声掛けと共に開かれる。グレージャケットに黒い膝下丈タイトスカートの高背の若い女性が、ヒール音を立ててジェンガ前で止まりiPad片手に自身より少し背の高い彼へ激昂する。

「ちょっと社長! 何遊んでるんですか!」

「うるさいなあ。私は今こうやって英気を養って自分という世にも美しい存在を高めさらに、」

「ナルシスト発言はいいですから仕事して下さいまだ溜まってるんですよほらほらほら!」

「あー待ってこのジェンガのとある一ピースを抜くだけでドミノ倒しとモノレールの果てにあの我社の最新おもちゃロケットが宙へ飛び立つというのに、」

「いい歳した大人が何やってるんですかていうか何でこのジェンガこんな極太なんですかふっと! しかも形が何かセクシーでキモい、えっこれセクハラ? セクハラとパワハラ? 社長暗殺の仕事入ったら遠慮無くサクッと殺っていいですか?」

「うるさいなあ私がナルシストなら君もナルシストなんだよねえまあうち美形しかとってないから当たり前の事なんだけど…ゴホン、いいかねこの形を表すのにこれだけの太さが必要だったのとそれから決して私の趣味というわけではなくこのラインは決して女性の凹凸を表しているのではなくあと大事な部分はちゃんとこうしてビキニに包んでいるから問題無、」

「セクハラですねセクハラとパワハラで訴えます」

「あーうわ待ってくれたまえこれを崩されたら先の私の原動力の一つがああ」

「すいません社長例のAIRAMの案件がうぅわえっ何それすげえマネキンもビックリの精巧さですよどうしたんですかそれ」

「よくぞ言ってくれた新米秘書君、君の給料をぐんと上げようかこれは、」

「いいから仕事して下さい!」

「あっそうだ社長仕事の件でなんですけど」

「AIRAMの件だねよーし承知した今から行こうそうしようあっそれそのままにしてくれないと私次の仕事できないからそのままにしておいてじゃないと他の仕事の方にボイコットするからよろしく~」

「なっ、ちょっとこっちの仕事の期限来週ですよ!」

「来週か~なら明日から取り掛かって丁度良いからとりあえず今はこっち先行ってくるじゃーっ」

 ブロンドの癖毛を軽く横に流した背の高い新米秘書男性について社長がセクシージェンガのある部屋を後にする。「社長ー!」と女性秘書の声が叫ぶのを後ろに窓の無い白廊下を歩く社長へ、隣の部屋の扉を開けた新米秘書の彼が「にしても」と声量を抑えて言う。

「さっきの女体イイッスねボインじゃなくてこう出るものは出てるのに下品じゃないっていうか。どうせ仕事で殺すならあーいう女性がいいスよねえ」

「君趣味が合い過ぎてちょっとキモいなよし少し距離を置きながら話すか」

 「ええっ」と叫んだ新米秘書の前を通り過ぎた社長がジェンガの部屋の隣室へ入り、室内中央にある艶のある濃茶樹のデスクが陽光でその光沢を輝かせるのを横目に、一面窓の白い室内の廊下側にある暗い下階の部屋へ続く階段を降りていく。

「それはそうとAIRAMの件だな、隣室の景色も中々だ、造らせた甲斐があったよ」

 十枚の監視映像パネルが壁にある暗い室内中央のパネル光で照らされた白テーブル上のタッチパネル四枚に指を滑らせた社長が、複数の少女のプロフィール画像に目を落としてから監視映像を前に新米秘書の出した湯気の上がるブラックコーヒーを口にして壁側にあるサイドテーブル上に置いた。

「…して、彼女達の健康状態は問題無さそうかな?」

「ええバッチリ健康です最新のあのAI付健康診断ブレスレットが良い仕事してて脈拍血圧貧血か否か血液情報までわかるんですからマジあれもう医療機器メーカー側に売って良いと思いますよ」

「よしよし可愛いRAMちゃんが仕事してくれるお陰で私の懐も潤う苦しゅうない事だねワトソンじゃない君」

「確かに俺ワトソンじゃないッスけど社長の懐が潤うのは俺の懐の心配がなくなる事なんでそれは嬉しいッスね!」

「そしてこっちのRAMちゃん達は今どうしているのかな、ふむまあ普通に一km程の距離を走り始めたところか、私を模したマネキンが話す映像はもう流したようだね、ありがとう」

「にしてもこんなわけわかんない状況にいきなりなってんのに呆気なく人殺しちゃうような女の子達なんか集めて何が楽しいんスか?」

「うん世の中には色々なものを見聞したがる人達方々そしてクズ共がたくさんいるのだよワトソンじゃない君、そして彼らはお金を払ってでもそれを見聞したがる、まあこれによるポケットマネーは微々たるものだがこれは所詮いわゆる芋釣り式のビジネスのほんの始まりにしか過ぎないこれを餌にキッカケにしてたくさんのRAMを求める方々に次のビジネスの話でお金を頂戴し貰い奪い取るこれが美しい世の中のピラミッドの頂点に君臨する者達のする美しい…そうこんなに美しい常識がァアァアァアァアァアアアアアアアアアアアアアア」

「社長落ち着いて下さい」

「大丈夫だ私はこういう事であれがあれするような変態などではないからね」

「まあさっきのジェンガ見てたらわかるッスよ」

「うんまあそうだなまああれは仕事相手の趣味の女体なんだがな私はこうもっと背丈があって人を殺せる筋肉もあって女性らしいラインはそこそこに胸は控えめな方が、もちろん美顔で能力値も高くて暗殺の仕事もできて、」

「あーあー若奥様みたいな方が良いんですよねわかりましたよ」

「結婚はしていないいいかね結婚という制度は相手の家に入るという気持ち悪い仕組みがあるよって私の妻は私の家の人間にならずしてそうつまりは私の家の人間のものではなくこの私世界で唯一の存在の私のものだけになったのだよ世界で唯一の存在の彼女がそう我々の裏で信仰する宗教によってフフフフフフフ」

「あーわかりますわかります」

「うんくだけた口調が取れて素になっているねそんな能力値が高い君に私の飲み物を取る権限を与えよう、イチゴオレを頼む」

「はい紙パックのイチゴオレッス~」

「…。うん、このまろやかな口当たり! 甘さ! 苺の酸味! 牛乳がそれを穏やかに緩和し! 保存料が蓋を開けた瞬間に空中へ酸化しながらも現代の空気に疲れた私の体へ吸収しやすくかつ抗菌抗酸化しながら運ぶ手伝いをしている! 実に素晴らしい飲み物だこれは!」

「はい社長が甘党なのはわかりますよ俺よりかは甘党ッスよね俺も割と甘いの好きッスけど他人と共有するレベルではないですし」

「ああ自己を確立させ自愛し他人のもので薄れない君の存在は貴重だ我社のそして私の秘書にして良かったと思うよあっ勘違いしないように言っておくけど私同性愛者じゃないから安心してホントにマジホントだから」

「社長が同性愛者じゃなくて心身共に安心しますね今日から三日間いえ実質ほぼ二日半この建物内で一緒に過ごすんスから」

「まあしかし男性側の意見もないとな」

「社長ほとんどご自分の意見だけで通しますよね俺達下の人間の意見ほぼ皆無ですよね」

「まあしかし男性の人員もいないとな」

「俺達とは別で社長の執事とメイドさん達来てるんスよね俺達通信のやり取りだけでも大丈夫スよね本来」

「まあでも男性の人員もいないとな」

「まあ仕事上必要なのは理解していますよ」

「まあそうこなくてはなワトソンではない君、ありがとう40人の少女達のデータだねうーん、そうだな比較的美醜ピラミッドの下の方は片付いたのかやはり能力値は美醜に関係する、が、モブい顔の女の子がいるな、何IQ数値が高い子だったか、運動神経に関しての情報は無いから普通といったところかねなるほど」

「さっきその女の子がうちの最新医療ブレスレットの性能を正確に当てかけてビックリしましたよ」

「ほほう中々可愛らしいRAMだ、とすると顔は元々美しい部類の可能性があるな、今は医者の娘の女の子と一緒にいるのかうーんこの子は成績は良いがIQも残念な上に他人の言動の真似だけで生き延びたところがあるからなあ」

「この中の女の子達全員そうじゃないッスか。犯罪に近い事、中には犯罪に手を染めてる子達ばっかで俺目を洗いたいッスよ~」

「…まあ、そうだね。うん、にしても中々可愛らしい、名はというより姓はブライアンか、ほほうブライアンという名が実に似合わない顔だな。…うん、外見が非常に愛らしいRAMがいるな、」

「あー髪巻いてる女の子ッスかね。その子最初の銃の取り合いで顔の造形があんまり思わしくない女の子の顔を肘で殴って奪い取ってましたね」

「ほほう中々良い事をするねえなるほど実に良い不細工は中身も不細工だから見るに堪えないのだよなあ」

「それを監視する女性人員達の苦労が偲ばれるッスね。とりあえず女性陣が肌の露出具合とかが危うい箇所とかモザイク入れたり黒くしてくれてて良かったッスよ、見るに堪えないのがさらに見るに堪えなくなりますから」

「巻き髪の女の子、名はガルシアちゃんか。なるほどデータを見ても私の好みではないがかなりの人のRAMになれる逸材だな、この子はRAM候補にあげておいてくれ」

「つっても殺し合いで死んだら候補から外れますよね?」

「RAM候補で。たぶん勝ち上がるからこの子は」

「はいはい登録~っと。さっきのブライアンとかいうモブい女の子はどうしますか?」

「この子は…このままでいいかな。下手に大衆の目に晒すような子ではない子に感じるね」

「ウィ~ッス。あ~好みの女の子ばっかり見てえええ」

「私は大自然の美しい清らかな空気を吸いたいものだね…籠もりきりだと酔いが、うっぷ、」

「ちょっ、階段上がって作業してていいッスから! あと指示上から送って下さいここはいいんで、上にあるパソコンからも見れるッスよね?」

「う、うん…ごめんじゃあ現場からは一旦引くよ、上で少し休みながら仕事するかな、」

 

 

 

 銃声と赤い血で染まった始まりのホールから続く一本道の通路を、30人の少女が歩き走る。嗚咽と息切れの声と足音がこだまする通路の先に、白い光で区切られた縦長の四角い出口だけが全員の視界に映る。

 少女達に少し話す余裕が生まれ、強ばった談笑が少し大きくなると誰かの嗚咽の声も大きくなった。嗚咽する少女の声が後悔を言葉にする。

 スミスが汗をかいた額を手で拭い、横を走るブライアンに話しかける。

「何か後悔してるみたいだけど、あの子真っ先に殺された女の子のこと盾にしてたよね」

「…、怖いなあ」

「そうだね。私も緊急時にはあんな事しちゃうのかな」

「どうだろう。私まだスミスの事知らないし」

「正直だなあ。まあ4人の中に入れれば問題無いし、頑張ろう」

「うん」

「ちょっと、二人共速ーい!」