【 AIRAM 〜アイ・ラム〜 】(第一部小説執筆中)

オリジナル小説【AIRAM】。「アルファポリス」で執筆中公開中のものをこちらでも。追加入力&修正中ですがよろしければアルファポリスでもお気に入り等よろしくお願いします。

第一部「密室1日目」(対象…14歳のマリア名の少女、40名)〜『スタート』

スタート。

 

 

 

 白く光る縦長の窓が、暗い室内に明かりを灯す。壁も床も真っ暗、白い会議テーブルの上には年頃の少女達の写真とプロフィールが印刷された用紙が何枚も広げられている。

 窓からの白い光を逆光に。黒スーツの胸ポケット上までのびる緩いウェーブの金髪の女性が立ち上がり、同じ室内で椅子に座り見上げてきた若い女性一人若い男性二人に英語で話す。黒スーツの下に着た黒いシャツの襟の隙間から、金のチェーンがのぞく。

「…だから、仕方が無いのよ。依頼主の依頼内容通り、殺し合いをしてもらいましょう」

「良いのですか、奥様?」

「裏組織と各特殊機関にかけ合わせれば証拠隠滅は容易いから問題無いわ」

「それでは、女性の事は女性が準備、大物や建物に関する事は主に我々男性が準備でよろしいですね」

「そうね。ほとんど死んじゃうとはいえ、相手は女の子だものね。まあロクな子はいないみたいだけれど」

「FBI、CIA、NASA等に所属している人間がこんな事を依頼する。やはりあと五年以内にあの組織が、」

「来年以降に起こる事については今は後、そうでしょうマイダーリン?」

「奥様、お茶とコーヒーどちらがよろしいですか」

「コーヒーで。ありがとう。…久しぶりにちょっとワクワクしているわ。生きの良い子がいれば面白いのだけれど」

 シワ一つ無い白肌に薄化粧を施した金髪の女性が席につき、メイドの出した湯気のたつコーヒーを口にしてから優美に微笑んだ。

 

 

 

 アメリカ合衆国内、とある郊外。片側が濃い緑の森、もう片側が荒廃した薄い砂色の大地。その真ん中を延々と続く一本の道路を、タイヤの大きな警察車両が走っていく。

 運転していた若い警官が「あれ、」と声をあげた。彼の目線の先に、荒野の中にポツンと建つ黒い横長の建物が見える。若い警官の声に、隣に座っていた中年の警官が煙草の白煙を窓の外に流しながら同じ方向を見た。

「こんな場所にこんな建物ありましたっけ?」

「余所見すんな、横から鹿か熊が出るような所だぞ」

「すみません。でも先週ここ走った時はありませんでしたよね?」

「一週間であれだけの大きさだったら中身はすっからかんだろうな」

「あ、案外大きいですね。工場かなんかですかね? 形的に」

「コンサートホールかもしれねえぞ、また新しいアイドルやら歌手やら出るのかもな」 「あんだけ真っ黒だったらヘビメタとかゴスロリとかですかねえ。嫌だなあ、ここ静かで勤務中の癒やしスポットの一つなのに」

「ナビだとあともう少しで事情聴取先の女の子の家だな」

「あっ、先輩甘い物控えてたんじゃなかったんですか」

「うるせえなー。煙草よりこっちのが好きなんだよ。お前は運転中だから無しな」 「えー。そう言って帰りの運転代わってくれたりその時にくれるんですよね」

「今回はチョコだから溶けそうだな」

「あっ、早く終わらせましょう」

「警官にあるまじき事言うな。お前用にスナック系あるから安心して安全運転しろ」

「先輩…!」

 白煙を窓からなびかせた警察車両が、黒い建物の横を通り過ぎ、道路の向かう先の街へと走り去っていった。

 

 

 

 小さな白い照明がぽつぽつと遠い天井から垂らされた、暗く広いホール。ホールの中央とステージ上を除いた場所に敷き詰められた白いマットレス上に数十人の少女が横たわり座り立ち、ホール内を見渡し歩き話し合いそして怯えている。少女達全員の片手首には、銀色の氏名入りタグがついたブレスレットが着けられている。

 横たわる少女の一人が瞼を開け、起き上がる。と、隣に座っていた赤メッシュと脱色をかけた髪をカラフルなシュシュで片側サイドで結んだ髪を揺らした少女が、彼女に振り返った。赤メッシュの少女の、アイシャドウ等を赤系主流に薄緑を入れた垢抜けたメイクの施された顔が明るく綻ぶ。

「あっ、目覚ました」 「おー、お寝坊さんおっはよー」

「ねえこれであと何人? つか全員生きてんだよね?」

「医者の娘っていう子が確認したらしいけど本当かね」

「私らの方がわかんねえじゃん。まあ死んでても他人だからなあ」

「マジそれ」「てかこのブレスレット、マジ何なん?」「それなー」

 他の少女達が談笑するのを後ろに、赤メッシュの少女が目を覚ましたばかりの薄いミルクベージュ色の髪の少女に「ね、」と声をかける。

「前に同じクラスだった事あったよね! 覚えてる? 同じマリアって名前の!」

「え? あ、ああ」

「今どきそこまでいないからさあ、でもやっぱり数は多いよね! マリア様の名前だし!」

「え、何アンタらもマリアって名前なの?」「え、何アンタも?」

「え、私もだけど」「え、嘘ぉ」

「何こんな狭い場所でこんだけの人数でこんなマリアいるとか! マジびっくりなんだけどー」

 ミルクベージュの髪の少女が周囲の少女達の会話を耳に周りを見渡していると、他の少女達と話していた細い黒縁に四角い眼鏡の少女が彼女達の方へ歩み寄ってくるのが、薄化粧をしている一重瞼の彼女の視界に映った。眼鏡の少女の、前サイドに向けて長くしたショートボブ丈のブラウンカラーブロンドの揃えられた髪先が揺れる。眼鏡の少女が「名前の件なんだけど」と話を切り出した。

「他の子も皆、マリアって名前みたい。確認できる人だけだけど」

「つったってこんな所に寝てる間に集められて怖くて何も話せない子もいるんでしょ?」

「まあでもどうせ同じ名前なんじゃないだって確認した子も私らもマリアでしょ?」

「つかマジ怖くねー早くここ出ようよ」「どうやって? ドアも窓も何もないじゃん」

「スクリーンはあるよね。たぶんあれで何か伝えてくんじゃね?」

「まあそれしかないかあ」

 喜怒哀楽様々にホール内で時を過ごす少女達の中。自身の身嗜みやポケットの中を確認していたミルクベージュ髪の少女に、眼鏡の少女が隣に座って話しかける。

「貴女も起きたのね。貴女もマリア?」

「うん。貴女もマリアなのね?」

「そうよ。私は名字がスミス。よろしくね」

「私はブライアン。よろしく」

「貴女が覚えているのは何日まで?」

「十二月二十日。の、朝の登校時間」

「私も同じ。皆同じみたいなんだけど、今日はその日付で合っているのかしら」

「服は特に汚れてないし、頬の感覚からして今日は同じ日で合ってるとは思う。日が経ってるならもう少し頬が皮脂で汚れてると思うから。それに、お腹もそこまで空いてない。今思い出せる範囲では二十日の朝に家を出て大きい通りに出た後…からの記憶が無いけど、お腹の空き具合から見てもお昼かお昼過ぎくらいかな、夕方にはなってないと思うよ」

「…凄いわね」

「あ、そうかな。何かごめん、自分の意見ばかり言っちゃって」

「ううん。でも私もそこまでお腹空いてないから、そうかも。言われてみると、お昼くらいの時の感覚かな。朝から何もしてなければお昼過ぎくらいまでならこれくらいなのかしら。あまりペースを崩す生活をした事がないけど」

「まあ普通はそうだよね。そういえばブレスレットについては誰か知ってるの?」

「ううん。皆知らないみたい。貴女も知らないわよね」

「うん。わかるのは手触りと外見からタグとブレスレットの表面と肌に当たる部分がステンレス製で、横から見るとステンレスがプラスチックを挟んでる。叩くと音が軽くて高いからステンレスが薄いのがわかるし、ステンレスだけで作られてないって事は、プラスチックとこの分の〇.五cm位の厚みに理由がある事がわかる。タグ裏が熱を通し易いステンレスって事は、この形と素材を選択した事には意味があるんだと思う。氏名入りの理由だけで着けさせるなら、ステンレスだけとかプラスチックだけでも充分だし。あとは凝った物を着けさせたいだけの可能性、これを考えるには、氏名入りの理由だけで着けるにしては、タグ部分の厚みが不必要に厚いかな」

「…他にも似たような事を言ってる子がいたわ。不必要に厚いとか、絶対何か入ってるとか。何か入ってるとしたら、何かしら。GPS?」

「一番考えやすいのはそれだよね。後は…肌に当たる部分がステンレスかあ。これ、体温計をちょっと思い出すかな。あれの熱測るステンレス部分が肌に当たった時の感覚と、感覚が似てる気がする」

「…もし後者なら、何故体温を測るのかしら。遠隔で私達の体温チェック?」

「かなあ。うーん、まあでもちょっと想像がつきにくいよね」

「そうよねえ。それにしても、何で皆同じ名前なのかしらね」

「うーん、こんな変な所に集められたってなると、変な宗教かなあなんて思っちゃうかな」

「同感。…他の子は割と怖がってるけど、貴女、穏やかそうなのに案外、肝座ってるわね」

「はは。見た目パッとしてないけど、その分、度胸は良いって言われるよ」

「私なんかこの歳で近視よ。まあ親が医者だから勉強頑張んないとうるさいからなんだけど」

「へえ。その歳で医学の知識も?」

「まあ、英才教育ってやつよ。その教育の賜物でわかったけど、皆一応健康状態は問題無さそう」

「病人が一人もいないって事は、元気な人じゃないと意味がないって事なのかな」

「そうかも。怖いね」

「そうだね。でもずっとこのままも怖いから、スクリーン越しでもいいから何か…あ、」

 少女達の賑わいがより増えてきた、その時。ホールの前方に掲げられたスクリーンに、白仮面に黒スーツの人間の姿が映った。

『40人の少女の皆さん、リラックスしていますね。そのままで構いませんので聞いて下さい』

「何あれ」「マジ胸くそ」「こっちはイライラしてんのに」

「つか声Vチューバーみたいにすりゃいいのに何で機械的?」

『本日皆さんにお集まりいただいたのは他でもありません。殺し合いをしてもらう為です』

「は?」「え、何ー」「何かのドラマにあったよね」

「あれじゃん、日本の映画っしょ?」

『これから貴女がた40人、マリア名の14歳の少女40人だけで、バトルロワイヤル(殺し合い)をしてもらいます。この建物内での貴女がたには、ルールなど存在しません。よって、殺し合いには建物内の何を使っても構いません。残り人数が4人以下になるまで殺し合いをしてもらいます。場合によっては4人以上でも構いませんがね。しかしながら、残り人数が30人になるまでは、貴女がたはこのホールからは出られません』

 白仮面がそこまで言ったところで少女達の反応と声が大きくなり白仮面の言葉の最後が高い声とホールに響く物音でかき消される。

「ええー」「待って待って、何の撮影?」

「ちょっと仮面! 変な事言ってないでここから出せよ!」「マジそれ」

「えーつか何かあれじゃん? テレビの何かじゃん?」

「じゃないと有り得ねえし非現実過ぎるわ」

「…ブライアン、どうする?」

「私は生きたいかなあ」

「私も。共闘しない?」

「信用できるの、私の事? 将来医者の才女なら慎重にいきたいんじゃないの?」

「度胸ある女は味方にしておきたいじゃない?」

「まあ私も医者の女の子は味方にしておきたいかな」

「じゃ、交渉成立」

「OK」

 スミスとブライアンの話を近くで聞いていた赤メッシュの少女が、唾を飲んで「ねえ、」と声を出した。白仮面の声が機械的にボリュームを上げる。

『…今お伝えした場所のどこかに銃は隠されています。数は10のみ。このホール内の物は銃しかありません。繰り返し言いますが、貴女がたは30人になるまではこのホール内からは出られません。30人になった時点でホールから出られる扉が開きます。開いたら三分で扉が閉まります。道は一つしかありません。このホールで伝えたい事は以上です。あとは次の部屋で次の事を伝えます。…皆さん、おわかりいただけましたか?』

「はあー? 全くー?」「えーちょっと無理なんだけどこの状況」

「マジ怖えー」「えっ何撮影だよねこれ?」

『それでは、これから十秒カウント後に、銃のある場所のロックが解除されます。用意はいいですか? それではカウントします。…十、…九、』

「えっ何アンタら仮面の言う事聞いてたの? つか信じんの?」

「だって万が一何かあったらとか思うと」

「出口何もないんだよ? もうこれしかないじゃん」

「こっわ、絶対撮影じゃんこれ」「ねーこれ大人しくしてた方が良くない?」

「いやだって絶対ヤラセだしさあ」

 十秒カウント前から各所に散っていた少女達が仲違いや協力を始める。スミスとブライアンはホールの一番端にいた少女十人の場所へ駆け寄り、赤メッシュの少女も二人に続いた。カウントが五をきり、緊張と猜疑の声と彼女達の立てる音がホール中に蔓延する。

「いや本当にそんな事あるわけないじゃん」

「でも銃は普通に私ら日常的に触るじゃん」

「そりゃ万が一の時に備えたりとかさあ、殺人犯とか! 今この場に犯罪者いる? いないよね?」

『二、…一。ロック解除、皆さん、ご武運を。次の部屋で会いましょう。グッドラック、』

 カウント後で早口で告げるスピーカーの声が終わると同時にスクリーンが音を立てて暗くなり、「ロック解除」の声と同時に各所に集まっていた少女達が開かれたスマホ二つ分の小さな扉内にある銃に一斉に群がった。「ご武運を」の言葉の時点で銃声が三発以上鳴り「次の部屋で」の言葉の時点で高い叫び声が響き渡る。銃声が続いて鳴り鈍い音と悲鳴の後で息を呑み何人かで肩を抱き合った頃に「グッドラック」の言葉が終わると同時に扉が開く音がスクリーン横から鳴り、少女達が一斉に扉へと走った。  スクリーンの右横にある小さな電子パネルに、「30」の数字を小さい電子照明が形作っている。ホール上部から降り注ぐ小さな白照明が、ホール床に倒れた10人の少女の顔を照らす。彼女達の横に散った空の弾と赤く広がっていく血の池が、ところどころ白く光った。

 

 

 

 ~ 残り人数、…30。 ~