第三通路。
二メートル高さに三畳広さの暗い部屋のスクリーンパネルに、白スーツの白仮面が映り、長い黒髪の少女がお尻を擦りながらスクリーンに頭を垂れる。
『陽動のマリア、これにて貴女の役目は終わりです。お疲れ様でした』
「痛ァ、それにしても落ちる時は冷やっとしましたけれど、案外その、高さがあったので治療費とか戴きたいんですけれど、依頼遂行料金は幾らなんですの、白仮面様?」
『これから貴女はとある場所に送られます。楽しみにしていて下さい』
「ああ、白仮面様の仰る通りに致しますわァ、私を是非お好きになさって下さ、」
少女が先程落ちてきた天井が白仮面の言葉の最後で開き、上から少女が足を滑らせた黒いボールのワイヤーが高い白天井から切り離され、ボール下から生えた針山が彼女の頭の上に堕ちていく。スクリーンが光を消し、狭い部屋の開いた天井上より高い天井からの白い照明光が、黒いボールの下から三畳の部屋いっぱいに広げられた長い黒髪と赤い液体を照らした。
監視映像室の上階。濃茶樹のデスクが置かれた部屋の窓越しの、アメリカ合衆国内郊外の景色を前に。ゼロカロリーのコーラを手にした社長が、目前の景色を眺め呆ける。新米秘書が社長と同じパッケージのペットボトルを手に、彼と同じ景色を眺める。
「そういえば例の陽動役のキモヲタ少女の作品どうするんですか? いつもみたいに事件としてネタバラシするんスか?」
「うん、そうらしいねえ。本当の元ネタの人の作品はそれと一緒に誰かが拡散するらしいけど、それを世に売るかは世間が決めるんだろうね、いつも通り」
「あ~まあ本人の意志によるッスもんねえ…まあ俺の知り合いでも俺のする事でもないから他人事ッスけど」
「とりあえずアレいなくなって清々したよ」
「ホントそれッスね」
「他の醜いRAM達も早くいなくなってくれないかなあ。この仕事が終わったら暫くは海岸行ってプライベートビーチで好き放題遊んで暮らしながら仕事に追われたいなあ」
「あースケジュール詰まってますもんね」
「そういえば最近割と暗殺の仕事儲かってるんだって? 今回のバトルロワイヤルで白仮面以外の件お願いしてる人達の執事とメイドさん達が下の食堂で仲良く話してたよ。いいなあ…私も好きに人殺してお金貰いたいなあ…」
「あーまあ俺もやってますけど最近は右肩上がりですね。やっぱり経済が潤うとこっちの業界も潤いますよね」
「うん、これ終わったら久しぶりに運動不足解消しようかな、」
「プライベートビーチで好き放題遊んで暗殺の仕事で運動不足解消しながら仕事に追われる休暇か…」
「よーし明日はトレーニングと仕事頑張ろうかな、食堂の下に二十五mだけど温水プールあるし」
「えっ何であるんスか予算どうなってるんスか」
※.!注意事項!…以下に中傷が過ぎる表現がありますが、全員悪役サイドの方達のお言葉です。多めに見てください(作者を(^q^))。
暗く広い部屋の一面いっぱいに監視カメラ映像が映り、腕に銀タグのついたブレスレットを着けた少女達が映像内で走る。白テーブルと椅子の置かれた室内の中で一つだけあるコウテイ型の一人がけソファに、金髪の女性がパンツスーツを履いた脚を組んで座る。サイドテーブルには、下から上へ気泡を上げては消える薄い黄金に光る飲み物が入ったシャンパングラスが暗闇で発光する星型のコースターの上に置かれ、そのグラスの横には「お子様用」と書かれたノンアルコールのクリスマス用のシャンパンが添え置かれている。黒サングラスをかけた金髪の女性がグラスを持つ。室内にかけられている女性の歌手が歌う暗く神秘的な雰囲気の曲が流れている中。お子様用のノンアルコールシャンパンを傾ける若奥様に、十五人のメイドが詰め寄った。
「うわあ、奥様何聴いていらっしゃるんですか」
「これあの気持ち悪い女が主人公の歌じゃないですか」
「しかもモーツァルト?」
「モーツァルトってカツラの男ですよね成人しても神童とかいう扱いの~マジキモ~」
「ていうかこれすげえマリア連呼してません? どゆ事ですか」
「きっと歌詞作る人が手ぇ抜いたんですよ! しかもこれでガッツリ金もらったんですよ!」
「ヤバいじゃないですか」
「ヤバいのは貴女達の発言だわ、我が家のメイド達。もっと言いなさい!」
「「「「「「「イエー!」」」」」」」
「何をはしゃいでいるんですか貴女達。奥様の前ですよ。もっとやりなさい」
「「「「「「「イエエー!」」」」」」」
「あーやっぱりノンアルコールに限るわあ~」
「奥様はお酒に弱いですからね」
「あれよね吐いて捨てる程吐いた失敗談があるからこそ手をつけないのよね~」
「まあ私達もお酒は然程飲みませんからね。アルコールで発散するくらいなら運動するか人を殺してお金を頂戴して散財しますよ。私だけでなくメイド一人残らずそういう趣味の者しかいませんからご安心ください」
「あれよねうちの家に仕えるだけの趣味してるわよね~マジ安心しちゃうわ発散の仕方まで~」
暗い部屋で曲と曲の主役ならびに関係者をディスるメイド達の高揚が増す室内に、ドアをノックする音が聞こえた。続けて若い男性の声が「あのー、」と室内の女性達へ声をかける。
「すみません、かなり盛り上がっていらっしゃるご様子ですけど、仕事されていらっしゃいますか…?」
「うるっさいわねー新人執事! こちとら女にしかできない仕事を十五人でやってるっつーのに最終日まで何もできない男達が偉そうに仕事してるか聞くんじゃないわよ!」
「そうよそうよ! 聖アンデレみたいにあられもない場所を大股で見せつけられるように十字架に張り付けられても知らないわよ!」
「えっ…、なっ…?!」
「やだやめなさいよまるで私達が同性愛嗜好者みたいよ~」
「あっそれは嫌だわ! だって同性愛嗜好者ってかなり変なニオイするし」
「あ~それわかる~何かいかがわしいニオイと悪い意味でかぐわしいニオイが混ざったニオイするのよね~マジオェエエエエエ」
「ちょっと大丈夫?! 大丈夫よあの新人執事に吐いちゃって大丈夫よ!」
「えっちょっやめてくださいっていうか磔にされるのも嫌ですからね念の為言いますけど! あと女性がそういった事を男の前で発言なさらないでください! あと一番大事な事ですが、同性愛者は私も嫌いです!」
「「「「「「「今の最後の発言で許す事にするわ」」」」」」」
「ていうか新人執事君の彼女ちゃん、今メイドの修行中ですってね~」
「来年からうちの奥様のお屋敷で働くんでしょう? 同じ職場じゃない~」
「何々新人いびりしていい話~?」
「やっ…、やめてください…!」
「あーメイドの皆様、そろそろうちの新人をいびり倒すのやめていただけますか? 男性用の待機部屋に連れて帰りますね、彼」
「キャー! 執事一美男子の彼の声がするわー!」
「やだわ耳が超癒やされる~!」
「マジイケメン! そして早く私達の推しの若メイド長と付き合って~!」
「…彼女とは交際は既にしております。…帰りますよ、新人君」
「は、はい…!」
「「「「「「「ヤバい推し同士がくっついて我らの心萌ゆる仕事にならん」」」」」」」
「うちのメイド達本当良いわ~もっとやって頂戴~ていうか視界が暗くて画面がよく見えないわね…能力値の高い可愛子ちゃんはいるかしら?」
「奥様、暗い部屋で黒いサングラスは視界不良になって当然でございます…」
「あー、マジやべえまだ震えてる…」「マジそれ…つか今日の分終わりなんだったら通路抜ける制限時間もナシにしてほしい」「マジそれえ…」
「ウィルソン、平気?」
「いやあ、全然。見てこれ手震えてる」
「うわあ温めてあげたいけど私も震えてる」
「大丈夫ブラウン温めてあげようか」
「うわミラーお前も震えてんじゃんてか顔真っ青」
「ホラーとか見慣れてる人達は平気っぽいけどね~ねえスミスちゃん?」
「本当…ねえ、ルイスとかいう黒人の彼女が割と死体見慣れてるとか噂前の組が言ってるんだけど、」
「黒人強え~しかもウィルソンちゃん情報だと銃二丁あるんだもんね…身体能力も身長も腕と脚の長さも全部凄い上に場数踏んでるとか勝ち目ないじゃん~…!」
「ミラー、ホンそれ…てかブライアンまた黒人に捕まってたけど気に入られてない?」
「マジそれ。何か今の内に仲良くなっておこうってやつが増えてるから取り巻きも凄えし。やべえな」
「一応白仮面の言ってる事が本当なら次の部屋が食堂(ダイニング)と5人共有の寝室じゃん? ブライアンはこっちに入れておきたいよねえ」
「だな。この後小休憩とシャワーの後で食事時間の後に就寝じゃん? 小休憩時間で全部断らせておいてあと全部ガッチリホールドしとこうぜ皆でブライアンを」
「賛成だわ。まさかさっきの場所で…ゔっ、ちょっと具合悪くなってきた、」
「大丈夫か未来の名医! まあでもスミスちゃん医者の娘でもまだ医者じゃないもんね…よしよし、」
「てかブライアン人気過ぎて周りの人達引き剥がせるかなあどうするウィルソン?」
「あれだな、次の部屋に入った瞬間を狙うか。出口から出て皆が気緩んだ瞬間に四人全員で取り囲む」
「あれじゃん念の為医者のスミスちゃん以外にしない? 銃で邪魔する女いるかもじゃん」
「いやでも銃回収するって言ってただろ」
「わかんないじゃん隠して持ってく人いるかもだしってかウィルソン大丈夫?」
「全然、ごめんちょっと吐いてくかも、」
「ウィルソン、吐きながら走れじゃないと遅れたらマジ洒落にならんから」
「ヴッ、そうする、ごめんありがとミラーさすってくれて」
「てかビニール袋大量に用意されてて草」
「ホント。前の方でも後ろの方でも走りながら吐いてる子いるし、つられ酔いしそう…」
四人の前方で走る少女達の先頭で、ミルクベージュ色のロングボブの髪を後ろ一つで結んだ一重瞼のブライアンと、ワックスで毛先が尖った黒いショートヘアに黒肌の背の高いルイスが並び。そのすぐ後ろを、明るい栗色のブルネットを綺麗に巻いた背の真ん中まであるロングヘアのガルシア、そしてプラチナブロンドの髪をツインテールに結んだジョーンズが走る。
ルイスが「なあ、」と声を低くする。
「ブライアン、貴女、全部の言語を実は読めたんじゃないか?」
「いや、フランス語はちょっと難しくて。だからルイスが訳してくれて、本当に良かった」
「まあ、私の母国、フランスに占領されていた時代があったし、私自身にフランスの血が入っているから。でも最初のボタンからCを押していただろ?」
「…、フランス語以外はまだ読んでない時だったから、自信は無かったけどね」
「…全部の言語が読めると認めたな。凄いな、フランスとドイツに中国語もできるのか」
「あっ、あー、うん、まあ…。…本当の家が、複数言語普通に話す家で。でも9歳くらいの時に離れ離れになっちゃってからほとんど勉強してないから、自信がなかったのは本当」
「本当の家、という事は姓はブライアンではないのか?」
「名前も違うんだよね。黄色人種の血は入ってないのに中国か日本辺りみたいな名前で。紛らわしいから今はブライアンでいいよ」
「へえ。この建物から脱出できた時にでも聞かせてくれ」
「うん。4人以上残ってもいいみたいだから、きっと、その時に」
ツインテールのジョーンズが息を切らして走りながら、彼女より一歩速く先を走るガルシアに低い声量で話しかける。
「本当の家、ねえ。そんな、映画かドラマみたいな話、しちゃって。ハァッ、本当、かなあ、」
「…どうかな、私にはわからないや。そういえばさっき死んだ体操で国内優勝した女の子、銃持ってたんだって?」
「あ、そうそ。最初の、ホール、で、銃掴ん、でたの、盾にした女子、の陰、から見た、から…、ガルシアちゃ、足速く、なぃ?」
「言ってなかったっけ。陸上部なんだよね、私。ほら、IQ少女達の会話聞きたいんでしょ。頑張って、」
涙を浮かべながら赤い顔で走るジョーンズより二、三メートル開けて、先頭4人を除く残り19人の少女達が走る。先頭4人の前方の、真っ白な光で輝く縦型の四角い出口が、走る速度に合わせ大きく近づいていく。
(出口の先の明るい照明光で陰る暗い出口の上に「尚、シャワーシーンとシャワー映像シーンは、清く美しく麗し過ぎる大人達の事情により、カットさせていただきます☆」と日本語で書かれているのに目を留めた少女達の人数。…0(ゼロ)。)
(どこかやり遂げた表情を作者がしていたとかやっぱりしていただとか…。)